「バイオマス産業杜市真庭」、森の資源で叶えるSDGsと地域循環

2022.06.06 Update

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「バイオマス産業杜市真庭」、森の資源で叶えるSDGsと地域循環

(真庭市役所に近接したエネルギー棟では、木質ペレットなどを燃料としたボイラーが冷暖房として活用されている。筆者撮影)

脱炭素先行地域の第一弾に選定された岡山県真庭市。地域資源である木質バイオマスを使いこなした、循環型社会の先駆的なモデルを展開しています。筆者が、現地の「バイオマスツアー真庭」に参加してわかったことや感じたことをレポートします。

バイオマス産業杜市(とし)“真庭”とは

(真庭森林組合でチップ化された木材。乾燥させ、真庭市役所のボイラーの燃料となる。筆者撮影)

岡山県北部に位置する真庭市は、9町村が合併し、2005年に誕生しました。県下一の面積を誇り総面積の約79%が森林という豊かな自然に恵まれた地域です。

全国の多くの地域と同様に、人口減少と高齢化という大きな課題を抱えていた真庭市。若手経営者を中心として立ち上げられた組織「21世紀の真庭塾」のリーダーシップによって、ゼロエミッション化や町並みの再生を通して、地域の活力を取り戻すアクションが始まりました。

これをきっかけに、地域関係者の間にも「森林資源を余すことなく活用していこう」という強い理念が浸透していったといいます。というのも、一般的な林業では、木を育てていく上で細い木や曲がった木は伐って山に捨ててしまいます。伐採時に出る枝葉も同じです。製材所でも1本の丸太のうち、皮や柱として使えない部分が出るため、約50%しか木材として利用できず、残りは一般産業廃棄物としてコストをかけて処分するのが通例だったからです。

そこで、2014年には「真庭市バイオマス産業杜市(とし)構想」を策定し、真庭バイオマス発電事業・木質バイオマスリファイナリー事業・有機廃棄物資源化事業・産業観光拡大事業の4プロジェクトに力を入れていきました。

捨てられていた枝葉や樹皮も発電の燃料に

(真庭バイオマス集積基地 第二工場で加工された木質チップ。樹皮などを含むため、一般的なチップより色合いが濃い。筆者撮影)

真庭バイオマス発電事業では、地域住民、素材生産者、森林組合などから木質の未利用資源を広く「買い取る」仕組みを構築。製材の端材だけでなく、枝葉や樹皮といった通常なら捨てられてしまうようなものも買い取り、発電事業の燃料としています。

また、地元の集成材メーカー大手である銘建工業の工場で発生する木屑も、バイオマス発電の重要な燃料のひとつです。

こうして作られた燃料は、発電能力1万kWの「真庭バイオマス発電所」で使用されます。年間11.7万トンの燃料のうち約6割が未利用材、約4割が製材の端材などでまかなわれています。

(真庭バイオマス発電所は、点検のため停止する日を除き98%以上の設備稼働率を誇る。筆者撮影)

新たに生まれた地域経済、資源、人の好循環

(来庁者を出迎える、真庭市役所本庁舎入り口の真庭回廊。地元の木材や集成材などがふんだんに使用されている。筆者撮影)

こうした仕組みによる効果として、燃料購入費としてこれまでに約14.7億円の経済循環が生まれています。また、バイオマス発電による電気はFIT制度で売電されていますが、その収益の一部は山林所有者へ、再び植林し、森林資源の循環に協力してもらえるよう願いを込めて還元されています。

さらに、真庭市のエネルギー自給率は11.6%から約32.4%に改善し、地域経済だけでなくエネルギーの好循環も生まれています。2006年からスタートした「バイオマスツアー真庭」には延べ3万人超が全国から参加し、新たな人の流れを創造しています。

今後は、再生可能エネルギー自給率100%を目指し、広葉樹や早生樹などの未使用資源を活用するため木質バイオマス発電所の増設を地域の関係者とともに検討するほか、生ごみなどの資源化による地域資源循環システムの構築を目指すとしています。

2022年4月には、第一弾の脱炭素先行地域に選定された真庭市。林業・木材産業という真庭市の“生業”を生かしながら築き上げた地域資源・地域経済の循環モデルによって、地域の脱炭素をますますリードしていくと期待されます。

制作:office SOTO 山下幸恵 Facebook