「里海」の再生を目指す山口湾で、ブルカーボン創出に向けた現状と課題を聞く

2024.07.26 Update

インタビュー 官公庁 ブルーカーボン

「里海」の再生を目指す山口湾で、ブルカーボン創出に向けた現状と課題を聞く

山口県椹野(ふしの)川河口域・干潟自然再生協議会では、県内の団体や個人、地方公共団体などと「里海」の再生を目指しています。協議会のブルーカーボンワーキンググループは、ブルーカーボンのクレジット化に向けた調査を始めました。ワーキンググループのリーダーである山口大学の山本浩一教授にインタビューに協力いただき、クレジットの創出に向けた取り組みや課題について詳しく話を聞きました。

 

 

椹野(ふしの)川河口域・干潟自然再生協議会ブルーカーボンワーキンググループ(WG)では、どのような活動をしているのですか?

山口湾には、波が穏やかな浅い内湾で、自然海岸が比較的残っているといった特徴があり、アマモという海草が自生しています。アマモなどの海洋生態系が吸収・貯留する炭素をブルーカーボンといい、地球温暖化対策として、近年、注目度が高まっています。

 

山口湾にブルーカーボンのポテンシャルがあることに着目して、山口県が事務局を務める椹野川河口域・干潟自然再生協議会は2022年、ブルーカーボンWGを発足させました。どのようにブルーカーボンを貯留できるのか議論し、実際に活動を進めることを目的としています。現在は、主に、勉強会の開催や、アマモによるブルーカーボンの貯留量の現状把握や増加のための調査を行っています。

 

アマモに関する活動について教えてください。

今年度は、アマモの面積を増加させる取り組みに力を入れています。今年5月には、アマモの花枝(かし)を採取して、泥の上に束にして置き、発芽してアマモの群落が拡大するのを期待するといった取り組みを行いました。

 

山口湾のアマモ場は天然のものなので、そのときどきの気象等の影響を受けて、自然の増減を繰り返しています。われわれの活動では、アマモの生育がよくないところに手を加えて、群落を拡大しようと考えています。

 

他にも、アマモや生物多様性の重要性を市民の方々に広く知ってもらうための見学会を開催しています。今年10月には、第1回山口湾アマモ観察会を開催して、炭素が貯留されている泥の様子や、地びき網を使って魚やカニなどの観察をする予定です。ぜひ多くの方に参加していただき、アマモ場やそこに棲む生き物を知ってもらいたいと思います。

 

 

ブルーカーボンの貯留量の現状把握では、どのような調査を行っているのですか?

毎年1回、マルチスペクトラルUAVという5種類の光の波長で撮影できるドローンカメラを使って、アマモ場の現状把握を行っています。また、私の研究室では、アマモを泥に埋めて、泥の質がどのように変化するかを観察しています。微生物の働きによって、どのような質の泥では分解が進み、逆に、分解が進みにくい泥にはどのような性質があるのかなどを明らかにしたいと考えています。

 

 

現状把握ではどのようなことが課題だと考えていますか?

現状把握をするには、アマモの面積だけでなく、密度を調査する必要があります。ドローンカメラでは、アマモの面積は把握できますが、密度を把握しにくいという特性があります。特に、海の深いところにあるアマモを調査するのは難しいと考えています。

 

そのため、代表的なポイントのアマモを刈り取って密度を算定する潜水調査を行っていますが、これに多くの時間がかかっています。密度の計測は定期的に行わなければなりませんから、こうした地道な努力がもっとも大変だと感じています。

 

椹野川河口・山口湾はこの度、環境省のブルーカーボン機能把握調査の対象海域に選定されました。今回の機能把握調査では、WGだけでは実施が難しい潜水調査なども行われますので参考にしたいと考えています。

 

 

ブルーカーボンは、クレジット化(証書化)することで売買できるようになります。WGでは、ブルーカーボンのクレジット化を目指しているそうですね。

ジャパンブルーエコノミー技術研究組合が発行する「Jブルークレジット」への登録を目指していますが、なかなかハードルが高いと感じています。というのも、前述の通り、山口湾のアマモはもともと自生しているものです。天然のアマモ場は、台風のある年には面積が減少したり、台風のない年には面積が増えたりします。

 

「Jブルークレジット」では、アマモの自然増による炭素の吸収量はクレジットとして認められません。そのため、アマモの群落の間にタネをまき、アマモ場を増やすなどの方法でブルーカーボンを増加させることが必要です。すでにアマモがある状態で、保全活動によって炭素の吸収量を増加させ、増加した分を見極めてクレジット化することは、大きなチャレンジだと感じています。

 

あるいは、海岸に打ち上げられているアマモを底泥に埋めて炭素を固定し、クレジット化する方法も考えられます。こうした未利用のアマモは、放っておけば分解されてしまいますが、そうならないように有効活用することは、ブルーカーボンのクレジット化においても重要だと考えています。

 

 

ブルーカーボンWGの今後の展望を教えてください。

今後は、調査や研究をさらに進めてブルーカーボンを何らかの形でクレジット化し、得られた収益を協議会の活動資金に充てたいと考えています。現在、協議会の活動は市民らの募金による「ふしの干潟いきもの募金」や企業の寄付で支えられていますが、ブルーカーボンのクレジットの売却益を資金に充当して、活動をさらに広げたいと思います。クレジット化にあたっては、福岡県福岡市などで先行しているような、自治体によるボランタリークレジットの形をとることを視野に入れて検討しています。

 

椹野川河口域・干潟自然再生協議会では、ブルーカーボンをはじめ、生物多様性などネイチャーポジティブに資する活動に力を入れています。学生の皆さんなど、より多くの方々に活動のことを知ってもらい、ぜひ参加してもらいたいと思います。

 

(今年4月に行われた椹野(ふしの)川河口干潟再生活動2024の様子。筆者も参加して、アサリがエイなどに捕食されないようにネットを張る作業などを行った。筆者撮影)

 

<お話を聞いた人>

山口大学

社会建設工学科

山本浩一 教授

https://researchmap.jp/jo4gjl-jf8afn?lang=ja

 

<参考>

山口県(やまぐちの豊かな流域づくり)

椹野川河口域・干潟自然再生協議会の取組

https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/41/20713.html

 

制作:office SOTO 山下幸恵 Facebook