2018.07.20 Update
日本と台湾を結びつける、スマートシティ事業
今年の6月15日に、東京電力パワーグリッド(東電PG)と台湾の国立成功大学が、スマートシティ実証事業に関するMOU(覚書)を取り交わしました。工場跡地の広大な敷地に実証サイトをつくり、台湾電力をはじめとする台湾企業とさまざまな日本企業が参加する形で、これからのエネルギー事業に必要な技術開発を進めていくというものです。成功大学としては、将来は、台湾での地域エネルギー事業や東南アジアへの展開につなげていきたいということです。一方、日本企業にとっては、同様の展開に加えて、電気事業法や計量法などの規制にとらわれない実証が可能となるということです。
成功大学
台湾でも課題となる再生可能エネルギー開発
台湾では、現在の蔡政権の政策では、2025年に脱原発を実現するということになっています。現在、3つの発電所で合計6基の原発が稼働しており、4つ目の発電所でさらに2基が建設中でした。建設中のものは中止し、稼働中のものも2025年までには廃炉にするということです。
脱原発で懸念されるのが、電力の不足です。代替電源をどうするのか。方針としては、これを再生可能エネルギー(再エネ)で補っていくということになっています。しかし、言うまでもなく、太陽光発電や風力発電といった変動する再エネをそのまま原子力発電から置き換えるだけでは、電力不足という問題は解決しません。安定した電源として活用していくためには、そのためのシステムとして構築していく必要があります。そして、台湾に限らず、欧米でも日本でも、そのための技術開発が進められています。
台湾政府の目標は、2020年代中に、再生可能エネルギーの比率を20%にまで向上させるということです。そのためには、例えばエネルギーマネジメントシステムをはじめ、電気自動車や蓄電池などの蓄電設備、周波数変動を抑制するパワーコンディショナーやその他の変電設備、負荷に追従できる電源などをどのように統合していくのかが、鍵となってきます。
技術立国を目指す台湾
台湾政府は元々、技術立国を目指す政策を進めてきました。そのための事業の1つに、サイエンスパークの整備があります。
場所は、台湾南部の沙崙です。ここに、台糖(台湾の国営の製糖会社)の工場跡地があるのです。この場所を7つのエリアにわけ、各エリアを異なる所轄官庁が、研究施設を整備していくということです。そのうちの1つ、Dエリアとよばれる場所が、台湾経済部(日本の経済産業省にあたります)が担当し、エネルギー関連の実証試験もここで行われることになります。
そして、国立成功大学は、この場所で次世代エネルギー技術の実証試験を担当することになっています。
台湾政府と日本企業との出会い
成功大学が実証試験を行うにあたって、日本企業が参加していくということになり、MOUが締結されたのですが、そのきっかけは、昨年夏のある出会いということです。
日台の事業にしていくために最初にリードしてきたのは、各種メーター製造のアズビル金門でした。同社が、台湾政府の経済部から、サイエンスパークにおけるプロジェクトを知らされました。これを日本に持ちかえり、東京電力パワーグリッドなどさまざまな日本企業に声をかけ、その参加に向けて調整が進められました。
最初こそ、アズビル金門が調整にあたっていましたが、プロジェクトの規模が大きくなるにしたがって、野村総合研究所の現地法人が間に入り、まとめていったということです。また、その過程で、台湾側でも台湾電力や成功大学との話が進み、今回の東京電力PGとのMOU締結にいたりました。
6月15日のMOU締結にあたっては、規模の大きなセレモニーにしたいということで、成功大学では参加者300名を超える「新世代エネルギー管理セミナー」が開催されました。セミナーの登壇者は東電PGの岡本浩副社長や早稲田大学の石井英雄教授をはじめとする日本、および台湾の技術者・研究者で、日本でも話題となっているユーティリティ3.0も紹介されました。
日本ではできない実証を
さて、実証試験では、どのような企業が参加し、何を行うのでしょうか。
今回のきっかけとなったアズビル金門ですが、まず親会社のアズビルがCEMS(コミュニティエネルギー管理システム)を担当し、ガスや水道メーター周辺のIoTをアズビル金門が担当するということです。
この他にも、東京電力PGだけではなく、日立製作所、富士電機、東光高岳、東光東芝メーターシステムなどの日本のメーカーが参加します。また、台湾からはNextDriveが参加することになっています。
この他にも、都市ガス会社などを含め、さまざまな日本企業が、参加を進めています。
実証される技術も多様なものになります。現在、注目されているVPP(仮想発電所)をはじめ、日本のベンチャー企業のインフォメティスが持つ家電分離技術(消費電力の波形分析による家電の消費の分析)といった技術も導入されるということです。
また、ブロックチェーンなどを活用した、再生可能エネルギーのP2P(個人間)取引や、V2G(電気自動車から送電網への電気の逆潮流)といった、日本では計量法や電気事業法などの制約がある実証試験も行われることでしょう。
台湾としては、こうした個別の実証試験を踏まえて、将来はスマートシティの開発を構想しているということです。別の工場跡地での都市計画も、成功大学が担当することとなっているということです。
一方、サイエンスパークの事業とは別に、台湾電力では、今年中にまず20万台のスマートメーターを設置し、順次交換していくことを計画しています。このスマートメーターから得られるビッグデータの活用もまた、重要な技術開発となっていくことでしょう。
途上国のスマート化はこれからのビジネスチャンス
実証・開発された技術は、日本や台湾で実装されていくことになるでしょう。
しかしそれだけではなく、東南アジアなどでの導入が期待されています。
途上国の場合、発電設備や送電網が十分に整備されているとは限りません。現在でも、小規模なディーゼルエンジン発電機などで限られた電力を使っているような場所もあります。
こういった地域に、新たに化石燃料による火力発電所を建設することだけで電化を進めることは、気候変動問題や過剰な送配電網といった不合理な面があります。むしろ、分散型の、それも再生可能エネルギーの導入が、長期的には現実的でしょう。そして、その電気を安定して使えるようにするには、スマートなエネルギー技術の必要性は、日本以上に高いのではないでしょうか。
こうした、途上国のビジネスチャンスというのは、日本も台湾も考えているところです。
さて、サイエンスパークはすでに着工しており、来年末から順次施設が完成していく予定です。したがって、実証試験は再来年開始となる見込みです。日台の実証試験の成果が期待されると同時に、このフィールドにさらに多くの日本企業の参加ということも、期待されるところです。
Text by 本橋恵一(エネルギービジネスデザイン事務所)