ESG投資とVPPの将来(太陽光発電シンポジウムより)

2018.11.21 Update

SDGs ESG投資 VPP

ESG投資とVPPの将来(太陽光発電シンポジウムより)

11月14日・15日、都内で太陽光発電協会主催によるシンポジウムが開催されました。2日間にわたるシンポジウムでしたが、その内容は国の政策の状況から気候変動問題、住宅用、新たなビジネスモデル、農業との連携など多岐にわたるものでした。

いずれも興味深い発表でしたが、その中から、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の吉高まり氏と大阪学院大学招聘教授の西村陽氏の報告を紹介します。

ESG投資は何を評価するか

三菱UFJモルガン・スタンレー証券 吉高まり氏

吉高氏が所属する環境戦略アドバイザリー部は今年2018年7月に発足したばかり。それまでは気候変動問題を対象としていたのですが、SDGs(国連持続可能な開発目標)を受けて、組織変更になったということです。とはいえ、環境問題のうちでも、気候変動問題は1町目1番地ということになります。

まず、ESG投資ですが、これは「環境」「社会」「ガバナンス」のそれぞれの頭文字をとったものです。これらは、非財務情報に含まれます。それぞれの課題に対する企業の対応が、リスクとして評価されるということです。環境を破壊する、人権問題に対応しない、コンプライアンスに問題がある企業は、リスクがあるということです。日本においては、GPIF(年金積立管理運用独立行政法人)がESG課題を反映させることにコミットしており、そうした点からも注目されています。そして、企業がSDGsに取り組むということは、単なる社会貢献ではなく、社会的な課題解決を通じて事業機会を生み出していると評価されます。

ESG投資において評価されることは、CSR(企業の社会的責任)だけではなく、本業を通じての社会的課題解決だということです。日本の企業はCSRレポートをよく発行していますが、これはESGのうちのガバナンスに相当するものです。投資家はさらに、環境と社会に対して、どのような技術を持っているのか、どのようなビジネスチャンスを有しているのか、そういった情報を求めています。

また、ESG投資における評価のポイントは、ポジティブスクリーニングが基本ということでした。逆に言えば、石炭産業などから投資を引き上げる「ダイベストメント」ではないということです。

もっとも、そうした中にあって、日本企業はクリーン技術関連の情報開示などが遅れているという評価でした。

ESG投資と気候変動問題

ESG投資とSDGsとの関係は、図1に示したように、事業機会を創出するものとなっています。とりわけエネルギー関連は他のSDGsのターゲットと比較しても、多くのビジネスチャンスがあります。これは裏をかえせば気候変動問題の解決にもつながっています。

図1 ESG投資とSDGsの関係(出典:GPIF)

 では、ESG投資に対応するためには、エネルギー関連技術の開発をターゲットにすればいいのでしょうか。吉高氏はそもそも、必要なのはターゲットではなくビジョンだといいます。例えば、2030年のあるべき姿をビジョンとして打ち出し、そこに向かって何をするべきかを考えるということです。そしてギャップがあれば解決していくというプロセスをとります。

ビジョンを示すのは、トップの役割だといいます。CSR報告書にはしばしばトップの言葉が示されていますが、現状は不十分だといいます。本業を通じたストーリーを語ることが重要だということです。

気候変動対策といえば、再生可能エネルギーはその代表です。技術開発が進む一方、再エネ100%を目指す企業も増えています。

しかし、他にもさまざまな対策があります。吉高氏はこの日は、気候変動に対する適応分野での事例を紹介しました。

適応には、「自然災害に対するインフラ強靭化」や「食糧安定供給」などさまざまな分野があります。災害に強いインフラ整備は、日本の建設会社の得意とするところです。太陽光発電も、再エネというだけではなく、停電による被害の拡大を防ぐという手段にもなります。

ESG投資が進んでいないといわれる日本ですが、実はさまざまな技術があり、トップがビジョンを示せば大きく進む余地が大きい、吉高氏の講演を聞き、筆者はそう思いました。

 

再エネ導入とVPP

西村氏はVPP(仮想発電所)をはじめとする電力のデジタルイノベーションの動向について講演しました。

最初に西村氏は、今年6月に開催されたIEAシンポジウムのセッションから引用し、世界共通の課題として、再エネ増加と系統安定化の両立、および短周期で変動する太陽光発電に対する需要側の取組みが重要であることを示しました。

現在の日本でもそうですが、変動する太陽光発電や風力発電の調整力の主力は揚水発電とガス火力発電です。これに対し、場所を選ばない需要側の資源として蓄電池などDER(分散型エネルギー資源)がこれから重要になってきます。

すでに、フランスでは化学工場や製鉄工場などの生産ラインが出力制御に使われており、米国のテキサス州やペンシルバニア州では大型蓄電池が2秒単位で調整を行っているということです。

日本でもVPPの実証試験が行われています。関西電力が参加するプロジェクトは最大規模のもので、蓄電池だけではなく、電気自動車、エコキュート、空調、BEMS、コージェネレーションなどをつないで行われています。

では、実用化のめどが立っているのかというと、簡単ではないようです。マネタイズが難しいことと、規模の問題があるということです。

VPPのビジネスモデルはいろいろ考えられる中で、日本では、系統運用者から収入を得ることを想定しています。しかし、2021年以降に整備される需給調整市場では、秒単位の調整に対し、1kWあたり年間1万円程度、分単位では5000円程度と予想されるということです(図2)。そして現在のVPPの実力では45分以内というレベルで、調整力としての価格はさらに低くなると考えられます。

また、規模としては100万kWのオーダーで必要だということです。実際に、今年の秋には九州電力管内で、太陽光発電の発電制御が行われましたが、これが数十万kWというレベルでした。当時、九州電力管内にあったVPPの吸収能力は3000kW低度だったそうです。関電のVPPでも1万kWを超えるレベルですから、より規模の大きなVPPが必要だということがわかります。

図2 商品区分(出典:資源エネルギー庁)

 

需要側のイノベーションが太陽光発電拡大に不可欠

西村氏は、VPPを事業化するためには、規模の拡大、コストダウン、反応の高速化と信頼性向上、制度設計が必要だといいます。

また、そのイメージとして、高速で反応するリソースについてはコーディネーター、そして低速についてはナショナル・プラットフォーム(国レベルでのプラットフォーム)でまとめていくというものを示しました。高速では蓄電池など、低速ではEVやエコキュート、空調などが含まれます。そして、低速に対しては、二酸化炭素削減価値を含めたらいいのではないか、ということです。

また、英国やドイツでは、DERのスタートアップが調整力市場に参入しているということです。特に英国には1秒以内という応動時間に対応する、蓄電池を想定した枠をつくり、発電機よりも高い価格で調達契約をしているということです。

筆者としては、大きな方向性として、太陽光発電の増大に伴い、DERの重要性が増すこと、そしてそのイノベーションがカギを握っているのはその通りだと思います。

ただ、日本のVPPは高い技術で単純なことをしているのではないかと感じています。もっと低コストのDERの技術で低速の調整力をつくってみるところからでいいのではないでしょうか。そのモデルを構築しながら、高い技術を高速の調整力にシフトさせていけばいいと思うのです。DERは、探せばいろいろあるように思います。

 

Text by 本橋恵一(エネルギービジネスデザイン事務所)