2017.08.28 Update
電力小売完全自由化から1年。その実態と、凸版印刷株式会社の見据える今後の戦略
凸版印刷株式会社では、印刷の枠にとどまらず情報コミュニケーション系、生活・産業系、エレクトロニクス系など様々な分野で社会的課題解決のためのビジネスを展開しています。今回は2017年4月より開始した、過去のエネルギー使用データが分からなくても家庭のエネルギー消費量を推定し、電力・ガス・灯油を組み合わせた最適なプランを顧客に提案できるエネルギー事業者用サービス(※①)の開発やその展開について、凸版印刷株式会社 事業開発・研究本部エネルギーソリューションセンター部長である東和弘氏にお話を伺いました。
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エネルギーソリューションセンター部長 東和弘氏
自由化に向け、家庭内エネルギー利用関連の調査・実証事業を通じノウハウを蓄積
―このサービス開発まではどのような背景があったのでしょうか?
東氏 2016年4月の電力小売全面自由化、また2017年の都市ガス小売全面自由化に向け諸外国の先例を調査しました。その結果、価格面の差別化が収斂した場合、家庭向け個別サービスで差別化を図っている例が非常に多く見受けられました。サービス内容としては電力会社が省エネのアドバイスを行い、そこにクーポンやキャンペーンを仕掛ける事例が多かったのです。このような事例は日本でも広がる可能性があり、凸版印刷の情報コミュニケーションのノウハウを生かした電力関連事業を展開できるのではないかと考えたわけです。
もともと、2010年から総務省のプロジェクトである、「ネットワーク統合制御システム標準化等推進事業」に参加し、家電に蓄積されたデータの見える化・制御・分析の実証できていましたので、あとはそのコストパフォーマンスや、市場性の有無、また、どのように消費者に役に立つかを確かめる必要がありました。
その後2012年からは経済産業省の、「次世代エネルギー・社会システム実証事業」における「北九州スマートコミュニティ創造事業」の、インセンティブプログラム実証実験に参画し、電力使用ログを用い、割引やクーポン配信を家族構成などに合わせて配信することが電力使用量削減に効果的であることを実証しました。
その際に今回のサービスの根幹となる“VIENES”(家庭向けエネルギー情報サービスプラットフォーム)と“REEDA”(家庭内エネルギー消費量推定法)を開発したのです。
2014年からは、同じく経済産業省の、「大規模HEMS情報基盤整備事業」に参画し、これまでの実証事業ではできなかった、非常に多くのモニター家庭に対し大規模なサービスを行うことによって、さらに内容を充実させました。
VIENESは消費者向けのプラットフォーム、REEDAはエネルギー消費把握のための考え方
―「VIENES(ヴィエネス)」と「REEDA(リーダ)」について詳しくお聞かせください。
東氏 「VIENES」はスマートメーターやHEMSから生まれる家庭の電力使用ログから生活行動を予測し個人の購買行動やプロファイルデータと紐づけサービスを提供する、富士通株式会社と共同で開発したエネルギー情報サービスプラットフォームです。一方の「REEDA」は、生活時間や生活人員をベースにエネルギー消費量を把握するための考え方・ロジックです。こちらは早稲田環境研究所、早稲田大学の3者で研究・開発しました。
消費者の入力負荷を軽減し、電力事業者との間のコミュニケーションを促進
―このサービスの機能とはどのようなものなのでしょうか?
東氏 消費者にとって、電力やガスのプランを選択する際に、実際のエネルギーの使用量を把握して入力する作業は面倒であり困難なことです。そこでこのサービスでは家族構成など最低限の情報でエネルギー消費量を推定でき、入力負荷を削減することができます。また、電力事業者にとっても、電力データの推定結果を凸版印刷の本業である各種媒体へと展開し、各種キャンペーン施策と連動を図ることでサービスの向上・顧客獲得につながるというメリットがあります。
今後は生活サービス激化を見据え、営業支援ツールのひとつとして展開
―今後の展望としてはどのようなことをお考えですか?
東氏 現状としては、電力の小売全面自由化が始まってから1年経過し、自由化については認知している人が増えていますが、実際に電力会社を切替えた人はまだ10%程です。まだ市場は拡大しきっておらず、認知できているはずなのに電力会社を特段変えていない消費者が多いようです。単純な電気代の高低だけではなく、何か別のサービスとのセットでメリットが無いと消費者が電力事業者を変える動機にはならないと見ています。そもそも新電力事業者は、単に価格だけで勝負してしまえば、大手電力会社に勝つことは難しい。しかし、新電力事業者は営業・サービス面でそれぞれの特長を前面に押し出すことで、大手電力会社に勝てる内容を提供できるはずです。そのため、これからはエネルギー制御をして省エネ・節約するという機能にプラスして、消費者の生活を支援するサービスのひとつとして、どう利用されるかが展開のポイントとなると考えています。
今着目しているのは、アマゾンエコー、グーグルホーム、キネクトなど、音声や動きで音楽や家電を統合的に操作するサービスです。これらのような人が楽しめるサービスにエネルギーマネジメントの機能を連動させることは大いに可能性があることと思います。他には、動画・音楽の装置、温度調整の装置、掃除ロボット・・・なども、チェックすべきポイントと捉えています。いずれにせよ、これらのようないわゆる”お楽しみの世界”から入っていくことも今後検討していきたいと考えています。
凸版印刷は、これまで培ってきた技術やノウハウを利活用し易い形でさまざまな業界に対しサービス提供してきました。エネルギー業界に対しても、仮説を立て、実証事業に参画し、投資を重ねてきた技術やノウハウを蓄積しています。これからのエネルギー業界は、値段の勝負だけではなく、いかに地域・生活に根付いているか、加えて「あなたのためにやっているか」というサービスの質の勝負になってくると考えています。まだ世間的にはエネルギー関連サービスが本当の意味で必要とされている段階ではないかもしれませんが、必ず必要とされるサービスの一つであると信じ、世の中の変化に対していつでもすぐに動くことができるように、質の向上を重ね、他のエネルギー関連事業者とともにもっと業界全体を盛り上げていけるよう、玉を打ち続けたいと思います。
<注>
※①凸版印刷株式会社ニュースリリースhttp://www.toppan.co.jp/news/2017/02/newsrelease170227_2.html