金融で脱炭素化する世界

2018.09.26 Update

パリ協定 気候変動

金融で脱炭素化する世界

気候変動問題に対して、民間からも対応していこうという動きがあります。とりわけ米国では、トランプ政権のパリ協定離脱に対し、国内の企業と自治体がパリ協定に残るという意思表示をして、運動となっています。例えば、その動きとして、9月12日―14日には、米国サンフランシスコで、グローバル気候アクションサミット(GCAS)が開催されています。

民間でも金融部門は、脱炭素化に強くコミットメントしてきました。ESG投資(環境・社会・ガバナンスに配慮した投資)が注目されていますが、こうした中で、石炭産業など温暖化を促進させる企業や事業への投融資は避けられる傾向にあります。

こうした世界の動きに対して、日本はどうなっているのでしょうか。

気候変動を防止するため、大気中の二酸化炭素濃度を350ppmにまで下げようという活動を行っている環境NGOの350.orgの日本支部である350.org japanは、日本の金融機関の化石燃料と原子力への投融資状況を調査し、報告書をまとめ、9月10日には調査発表イベントを開催しました。

日本でもようやく増えてきたESG投資

イベントでは最初に、地球環境戦略研究機関(IGES)の森尚樹氏が、脱炭素に向けた国際的な金融の流れについて話しました。

森氏によると、ESG投資の規模は、世界的に増加しており、2016年残高では、欧州が12兆400億ドル、米国が8兆7230億ドル、カナダが1兆860億ドル、そして日本は4740億ドルです。日本はまだまだ少ないのですが、2012年残高はわずか70億ドルでしたから、ようやくといったところです。

また、化石燃料からのダイベストメント(投資撤退)にコミットしている金融機関は985機関で資産規模は6.24兆ドルです。さらに、289機関(資産総額30兆ドル)はClimate Action 100+という活動を行っており、二酸化炭素排出量が多い100社に対して、エンゲージメントを通じて気候変動対策を促しているということです。また、この100社のうち日本企業は9社が含まれています。

350.org japan代表の古野真氏からは、報告書の概要とCool Bank Awardの発表がありました。

詳細は公表された報告書にあたっていただければと思いますが、ポイントをいえば、まだまだ日本のメガバンクは化石燃料関連の投融資の規模は大きいということです。

また、G20の財務大臣・中央銀行総裁の要請で設置されたTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)における情報開示も行っていますが、まだ十分な内容になっていないということでした。

合わせて、化石燃料への投融資を行っていない金融機関を対象としたCool Bank Awardが発表されました。選ばれたのは、石炭関連に投融資していないことを回答した楽天銀行とじぶん銀行、および融資していないと回答した一部の信用金庫や労働金庫でした。

また、同じく350.org japanの下村ゆり氏からは、金融機関に石炭からのダイベストメントをよびかける活動をする一方、脱炭素に後ろ向きな金融機関からは預金を引き上げる運動を展開していることが紹介されました。

この他、パネルディスカッションも行われ、金融と気候変動をめぐる議論が交わされました。

気候変動は金融機関にとってもリスク

日本の金融機関はともかくとして、世界の金融機関が脱炭素化を進めていることには理由があります。それは、気候変動そのものがリスクになっているということです。

欧米では多くの金融機関が、社会的責任投資原則に強くコミットしてきました。今で言うESG投資です。最初は年金基金といった、長期の投融資を想定している機関投資家が、持続可能ではない企業(軍需産業やたばこ産業、公害問題などがある企業)を除外するようになったのがはじまりです。気候変動対策も、持続可能であることに関わっています。また、保険会社にとっては、気候変動による災害のリスクも大きなものとなっています。

その一方で、ダイベストメント運動に加えて、インベストメントにももっとコミットする必要があるかもしれません。

メガバンクが石炭への投融資が多い一方で、ATMの数などを考えると利便性が高いことは否定できません。そうであれば、ESG投資につながる投資商品の開発などを求めるということもあるでしょう。

また、石炭や原子力に融資していない全国の信用金庫ですが、現実には預金を地元へ融資するだけではなく、かなりの部分を中央信用金庫に預けており、そこから石炭への融資にまわっています。そうであれば、地元にもっと融資できるようにしていくことが必要でしょう。とはいえ、信用金庫だけで融資していくのは簡単ではないでしょう。

近年は、クラウドファンディングが拡大しています。その中には、地方の事業を対象としたものもあります。こうしたプラットフォームを通じて、小規模なクラウドファンドで成功した事業に、追加融資を行って次のステップに進んでもらうということもできると思います。

最後に、GCASにもふれておきます。

こちらは、世界の国、自治体、企業、投資家、市民団体などがサンフランシスコに集まり、3日間の日程を経て、気候変動対策を2020年よりも前倒しをする協調行動をとる宣言をして閉幕しました。

トピックとしては、開催地であるカリフォルニア州のジエリー・ブラウン知事が2045年に州のカーボンニュートラルを宣言した他、企業からも再エネ100%へのコミットメントなどがなされました。

この他、1)電力のクリーン化とデジタル化、2)都市の低炭素化、3)賢明な水資源の活用、4)食糧確保・森林保護とバランスのとれた土地活用、5)廃プラスチック問題など資源効率化、の5つの分野を軸に、社会の低炭素化を進めることが提起されたということです。

脱炭素化とスマート化の進展は、世界的には加速していくのではないでしょうか。

 

Text by 本橋恵一(エネルギービジネスデザイン事務所)