2018.10.01 Update
米カリフォルニアで実証中のP2P電力取引
現在、TeMixというスタートアップ企業が、米国カリフォルニア州の電力会社であるSouthern California Edison(SCE)ら3社と、電力のP2P(顧客どうし)の取引を行う、Transactive Energy Systemという技術の実証を行っています。
日本でも、ブロックチェーンなどを活用した再生可能エネルギーのP2Pでの電力取引が注目され、実証試験が行われていますが、TeMixの技術は、それとは少し違うスタイルです。
AIによる、再エネ時代のお得な電気の使い方を
実際に、どのような実証が行われているのか、早速紹介しましょう。
実証に参加している団体は、SCEとTeMixに加えて、California ISO(C-ISO)、Universal Device(UD)の4社です。
基本的な考えは、SCEが電力取引市場をつくり、お客様が時間帯別の市場の価格に応じて電気を買う時間、あるいは再エネや蓄電池の電気を売る時間を決めることができる、というものです。また、AIを活用して、ライフスタイルにあった電気の使い方や、価格の判断などが自動で行える、といったところでしょうか。このシステムのプラットフォームを、TeMixがになっています。
また、こうした需給調整は、C-ISOの業務に反映されます。
一方、UDの役割は、需要家宅に取りつける。電気をマネジメントするデバイスの供給です。このデバイスが、住宅で使われる家電のスケジュールや電気の取引の管理を行います(図1、以下、全ての図はTeMix資料より)。
図1
もう少し具体的に、説明します。
まず、取引市場を設定するのが、SCEです。これは、カリフォルニア州では小売全面自由化とはなっていないからです。仮に日本で行う場合は、日本卸電力取引所(JPEX)が設定するのでしょうか。
この取引市場には、2年先とか翌日とかの電気の市場がつくられ、価格が示されています。当然ですが、電気を使う側では、なるべく安い時間帯に電気を使いたいですし、逆に電気を売りたい側は、なるべく高い時間帯に売りたいと思うでしょう。そうして、市場価格が決まっていきます。
では、誰が電気を売るのかといえば、住宅用太陽光発電や蓄電池などを所有しているお客様です。
住宅用太陽光発電の電気も、高い時間帯は節電してなるべくたくさん売る、とかできるでしょう。蓄電池で安い電気を蓄電して高く売ることもできます。
次に、価格ですが、カリフォルニアの市場では、いわゆる託送料金も変動しています。というのも、送電線が混雑しているときは高く、空きが多いときは安く、逆潮流になるときはマイナスの料金もあるということです(図2)。
図2
日本だと託送料金は一律になっています。しかしこれだと、隣の家に電気を売るのでも同じ料金がかかってしまいます。また、送電線の負担が減らせる場合でも、安くなりません。これだと、電気のP2P取引の障害になります。
電力取引までコントロールするエネルギー管理デバイス
TeMixでは、こうした一般のお客様が電気を取引するためのプラットフォームを用意し、電力取引所と連携させるということになります。
そして、このプラットフォームとつながるのが、UDのデバイスです。日本でいうと、HEMSのようなイメージでしょうか。
このデバイスは、2つの機能を持っています。1つは、AIで管理する、家電を使うスケジュールです。主に、空調、給湯、電気自動車への充電ということになります。こうした機器を、なるべく電気料金が安い時間帯で動かすということです。同時に、気象データや学習した住人の生活パターンなどを通じて、電力消費の予測も行い、スケジュールに反映させています。
もう1つは、電力の取引です。24時間価格が変化し、論理的には数年先までの電気料金取引市場が設定可能となっています。この取引もまた、人口知能(AI)にまかせるということです(図3)。
図3
こうしたしくみによって、お客様は自動的に、効率良く電気を使うことや、なるべく高く電気を売ることができるようになります。
スマートシティで活用?
この、Transactive Energyの技術、どのようなメリットがあるのでしょうか。
まず、電力会社にとっては、需給管理の業務の負担が減ります。お客様の側で、価格のシグナルを通じて、電気を効率的に使ってくれるからです。
また、送電線への負担も価格に反映されているので、新たな送電線をつくる負担も軽減されそうです。
また、電気を安定して使うために、お客様の側でも一定の責任を負うということにもなります。
現在、SCEで実証試験を行っていますが、近く、同じカリフォルニア州の電力会社であるPacific Gas & Electric(PG&E)でも実証試験を開始するということです。
では、この技術、日本での導入可能性はあるのでしょうか。
まず、制度の問題を解決することは必要でしょう。取引にあたっての、計量法への対応、および一律の託送料金の変更でしょうか。
今の託送料金では、とても採算がとれるものにはなりません。近所の家に電気を送ることや、逆潮流となる送電に対しては、相当安い価格に設定する必要があります。
こうした問題が解決されれば、一定の規模の地域の中で電気を売買することができるでしょう。
例えば、スマートシティを開発し、多くの家に太陽光発電や蓄電池、エネファームがついていたとしましょう。Transactive Energyの技術によって、このスマートシティ内の電気の需給がある程度バランスがとれれば、この場所への送電線の負担は小さくなります。
また、そもそも、太陽光発電などの変動する再生可能エネルギーへの対応が緩和されることにもなります。
これから先、再生可能エネルギーの発電設備はさらに増加していきます。しかし、この変動する発電量を緩和し、効率よく使っていく技術の開発はまだこれからです。さらに、技術の開発だけではなく、そのためのコストをどのように負担していくのか、ということも課題です。
日本では、太陽光発電や蓄電池など直流の電気を扱う設備の増加や分散電源の増加による周波数の乱れを防ぐためのデバイスとして、交流と直流をつなぐインバーターを設置し、電気をインターネットのように扱う「デジタルグリッド」や、小規模な再生可能エネルギーの電気をP2Pで取引するためのブロックチチェーンなどの技術開発と実証も進められています。
Text by 本橋恵一(エネルギービジネスデザイン事務所)