2018.10.23 Update
持続可能な社会を目指す小田原
現在、日本のあちこちで、太陽光発電などの再生可能エネルギーを中心とした脱炭素社会を目指すエネルギー事業が進められています。とはいえ、それだけで持続可能な社会ができるわけではなく、地方の課題としては一次産業の六次産業化や少子高齢化社会への対応、観光客の誘致、雇用確保や事業承継などさまざまなものがあります。
こうした中にあって、農業とエネルギーを両立させる取組みや、地域経済のリーディングカンパニーの積極的な気候変動対策など、活気ある活動で注目されているのが、神奈川県小田原市を中心とした運動です。
今回は、江戸川区のエコセンターの見学会で、小田原市を訪れました
耕作放棄地のみかんから始まった
今回の見学会を案内してくれたのは、かなごてファームの代表理事である小山田大和さんです。
小田原を活性化するために、かなごてファームを設立して農業の六次産業化に取り組み、そしてエネルギーへもその活動を広げています。
最初の見学場所は、かなごてファームのみかん畑でした(写真1)。
(写真1)
実は、小田原には農業従事者の高齢化によって耕作放棄地となっているみかん畑がたくさんあるということです。その畑を無農薬有機栽培でよみがえらせました。とはいえ、みかんをそのまま出荷したのでは、利益はあまり出ません。そこで開発したのが、「おひるねみかんジュース」です(写真2)。
(写真2)
無農薬のみかんをしぼっただけのみかんジュースは、みかんそのままの味がします。「おひるね」の由来は、耕作放棄地で眠っていたみかんだからです。
とはいえ、ジュースだけでは限界があります。そこで次に行われたのが、一つが他の加工食品の開発、もうひとつがソーラーシェアリングへの取組みでした。
田んぼの上のソーラーパネル
加工食品としては現在、ジュースの他におひるねみかんジェラートも販売しています。そして、みかんのお酒も開発中ということです。
一方、ソーラーシェアリングですが、これは田んぼや畑の上に太陽光発電パネルを設置するというものです。農作物の収量があまり変わらないレベルでパネルを設置できれば、農業とエネルギーの両方の収益が得られます。農地法の問題なども緩和され、最近は全国で増えつつあります。かなごてファームでは、さつまいも畑や田んぼにソーラーパネルを設置しました。
小山田さんのところには、他の農家経営者からも、みかん畑やソーラーシェアリング事業をやってほしいという話が来るということですが、対応するには人材が不足しているということでした。むしろ、小山田さんたちがつくった事業モデルが水平展開されることが期待されます。
脱原発を目指すかまぼこ会社の決意
小田原といえば、かまぼこが代表的な名産品です。なかでも全国にも知られているかまぼこメーカーの鈴廣は、エネルギー問題・気候変動問題にも熱心に取り組む企業なのです。
鈴廣の代表取締役副社長である鈴木悌介さんは、東日本大震災以降、この問題に率先して対応してきました。震災当時、停電に見舞われた際、工場などの操業が停止しましたが、もし一週間も停電が続いたら、倒産したかもしれないということでした。こうした経験から、大規模電源、とりわけ事故が起これば取り返しがつかなくなる原子力発電には頼れないという想いを持ち、地域のエネルギー事業に取り組んでいます。
そのことを象徴するように、3年前に竣工した鈴廣の本社社屋は、ZEB(ゼロエネルギービル)となっています(写真3)。
(写真3)
社屋に入ると、最初に感じるのが、木材を多用したぬくもりのある空間です。地元産の材木をふんだんに使ったということです。エネルギー設備としては、38kWの太陽光発電と2台のリチウムイオン蓄電池が使われています。
また、未利用エネルギーとしては、地下水を活用したヒートポンプで空調をおこなっています。これだけでも空調のエネルギーがおよそ半分ですみます。
さらに、建物の断熱性能も高く、厚い壁がこれ物語っています(写真4)。
(写真4)
オフィスフロアの空調は、足元から空気が噴き出す床噴出し空調を採用しました。一方、会議室は個別のデシカント空調です。この組み合わせがもっとも効率がいいとのこと。照明はほとんどがLEDですが、自然光を活用する光ダクトも取り入れています(写真5)。
(写真5)
こうした技術を導入し、最適な運用を目指した結果、省エネは50%以上となっています。
市民出資でメガソーラー
小田原市には、ソーラーシェアリング以外にもメガソーラーがあります(写真6)。
(写真6)
市民が設立したエネルギー会社のほうとくエネルギーが運営する発電所は、小田原市を代表するメガソーラーです。社名は土地にゆかりのある二宮尊徳の精神「報徳」に由来します。
最初に建設したメガソーラーの建設費は資本金や銀行からの融資に加え、1億円が市民出資によって調達されました。うち半分は神奈川県民、さらにその半分が小田原市民からの出資だったといいます。小山田さんも出資者の一人です。出資者は発電所のパネルに記名されています(写真7)。
(写真7)
その後、2号機、3号機と広げていきました。最初は固定価格買取制度の下で東京電力に売電されていましたが、現在は地元の電力会社である湘南電力に売電されています。
湘南電力の電気は、神奈川県民なら誰でも買えるということです。そして販売を担当しているのが、地元の都市ガス会社である小田原ガスとLPガス会社の古川だということです。なお、小田原ガスの社長である原正樹さんと古川剛士さんも、ほうとくエネルギーの取締役です。
実は、湘南電力は東京都板橋区の地域電力会社であるめぐる電力にも電気を供給しています。板橋区と小田原市には、そんな関係もできているのです。
実は歴史がある小田原の自然エネルギー
(写真8)
写真8は、辻村小水力発電所の遺構です。
小山田さんや鈴木さんが再生可能エネルギーに取り組もうとしたときに、昔を知る方から、かつて小水力発電があったということを知らされたということです。そこで、発電所があった場所を発掘し、遺構として見学できるようにしました。
辻村発電所は、1818年に、林業用の電源として開発されました。その後、富士フィルム向けに売電もする予定でしたが、関東大震災の影響で実現にはいたりませんでした。その後、山が旧日本軍の基地となったために送電線が敷設され、水力発電として不要になってしまい、1947年に廃止されたということです。せっかく開発されながら、あまり活躍できなかった発電所ですが、そこには小田原市民の地域のエネルギーへの想いのルーツがあるといいます。
残念ながら、現在は十分な水量がなく、発電所として復活させることは無理ということでした。
とはいえ、神奈川県内では小水力発電の開発は行われています。最近では、相模原市で早戸川発電所が運開しており、これも電気は湘南電力に売電されています。
小田原市を中心とした神奈川県西部では、再生可能エネルギーを中心とした持続可能なまちづくりが進められているようです。
Text by 本橋恵一(エネルギービジネスデザイン事務所)