2018.11.01 Update
IPCC特別報告書、地球温暖化1.5℃上昇のリスクと対策
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、10月8日、地球の平均気温が1.5℃上昇した場合についての特別報告書を公表しました。
パリ協定では、地球の平均気温の上昇を2℃未満、できれば1.5℃未満にとどめることが目標となっています。これまで2℃のケースと比較して1.5℃の場合、どれほど影響が小さくなるのか、そしてそのためにはどうすればいいのか。こうした点が、科学的知見としてまとめられたものが、今回の特別報告書です。報告書の公表に合わせて、政策決定者向けの要約(SPM)も公表されています。今回は、SPMをもとに、IPCCの特別報告書の内容を紹介したいと思います。
すでに1℃も上昇しており、残された時間は少ない
SPMではまず、地球温暖化がどのような状況になっているのかが示されています。これによると、地球の平均気温は人間の影響によって、産業革命以降、約1℃上昇しているということです。2014年に公表されたIPCCの第5次報告書では0.6℃となっていたので、気温上昇が上方修正されたということになります。
このままいくと、2040年頃に、1.5℃上昇に達するということです。ということは、地球温暖化対策に残された時間は少ないということになります(図1)。
(図1 人間活動による産業革命以降の平均気温の上昇)
では、1.5℃上昇にとどめておくためにはどうすればいいのでしょうか。SPMでは、CO2などの温室効果ガスの排出量と、2030年までに45%削減し、2050年にはほぼゼロにしなくてはいけないといいます。これは、なかなか厳しい数字だと思います。また、1.5℃に抑制する道筋は2つ示されています(図2)。うち1つは、1.5℃を超えた後、下げていくという道筋ですが、この場合は将来より厳しい削減が必要になります。
日本の削減目標は、2030年で26%削減、2050年で80%削減というレベルです。また、パリ協定の下で各国が提出した削減目標についても、大幅に不足しており、2℃未満にすら抑制できないというレベルとなっています。
(図2 平均気温の上昇を1.5℃未満にするための2つのルート)
1.5℃の上昇で地球はどうなるのでしょうか。単純に暖かくなるだけではありません。豪雨は増える地域もあれば、雨が降らなくなる地域もあります。グリーンランドと南極大陸の氷が解けることによる海面上昇、海氷の減少、海水の酸性化などが起こります。また、これに伴って、生物多様性や海洋資源の減少、マラリアやデング熱の拡大が起こります。
それでも、2℃上昇のケースと比較すると、海面上昇は10%低くなり、保全されるサンゴ礁は1%から10%に拡大するということです。絶滅する生物種も半分程度になり、植物に限っても、2℃の上昇で16%が絶滅するのに対し、1.5℃では8%ですむということです。これでも十分に衝撃的な数字ですが。
地球温暖化を抑制する方法は?
地球の平均気温の上昇を1.5℃に抑制するためには、厳しい削減目標が必要です。しかし、可能なのでしょうか。
SPMでは、エネルギーなどに関連した技術、土地の利用、経済、ライフスタイルなど社会や文化の変化などあらゆる分野で、急速な変化が必要だとしています(図3)。例えば、再生可能エネルギーの割合は70-85%まで拡大させます。残りは、CCS(炭素回収貯留)と原子力発電を増やすことです。また、再生可能エネルギーの拡大にあたって蓄電技術の発達も必要です。
急速な変化は不可能ではなく、例えばスマートフォンが10年程度で世界中に普及した事例も示されています。
(図3 地球温暖化を緩和し、適応していくための6つの分野)
また、こうした変化を後押しするのは、制度、技術、金融などさまざまな方法が用いられることになります。
金融の面からいえば、エネルギー関連投資はどのくらい必要になるのでしょうか。2015年から2050年の間に、サプライサイドで毎年1兆6000億ドルから3兆8000億ドル、デマンドサイドで毎年7000億ドルから1兆ドルの投資が必要だとしています。これは2℃に抑制する場合よりもおよそ12%多いということです。
2050年から先は、CO2を吸収していくことが必要だといいます。方法は大きく分けて2つあります。1つはバイオマスを燃料として利用した上で、二酸化炭素回収貯留を行うことです。もう1つは、森林を造成・拡大して吸収していくことです。これにより、2100年には、年間100億トンから1000億トンのCO2を吸収することになります。これは現在の排出量の40分の1から4分の1に相当します(図4)。
(図4 バイオマス発電とCCSの組み合わせ、および植林でCO2を吸収)
持続可能な開発と経済成長との関連
1.5℃に抑制したとしても、地球温暖化の影響があるので、適応するための対策も必要です。例えば、海面上昇に対応するため、防波堤をつくるというのもその1つです。また、降水量の減少に対応するため、効率の良い灌漑設備をつくることは、砂漠の緑化にもつながります。ライフスタイルの変化も求められます。肉食を減らすことで、牧草地を森林に変えることができます(図5)。
(図5 地球温暖化に適応するための灌漑や防波堤とライフスタイルの変更)
また、化石燃料の大量消費ができなくなることから、経済的な悪影響も懸念されます。
では、これらを、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に照らし合わせるとどうなるでしょうか。
前提として、地球温暖化の悪影響は、貧困な国や地域により大きいということがいえます。その上で、結論としては、地球温暖化対策をきちんとした場合、エネルギー供給、エネルギー消費、土地の利用の3つの分野でいずれもシナジー効果を発揮することの方が多いということです。
COP24・パリ協定をめぐる科学的根拠に
IPCCの特別報告書は、その内容もさることながら、今後の扱われ方が重要です。
気候変動枠組み条約の今年の締約国会議(COP24)が今年12月にポーランドで開催されます。主な議題は、パリ協定の内容をつめていくことです。この会議で、気温上昇を1.5℃未満に抑制した場合、どのような削減目標が必要なのか、そのために何をすればいいのか、こうしたことを議論するための、科学的根拠として、特別報告書が提出されます。
これまで、パリ協定をめぐる議論では、2℃未満を前提としてきました。それでも、各国の削減目標は十分ではなく、より野心的な目標の引き上げが議論されてきました。
しかし、今年になって会議は1.5℃未満に向かっています。これは、日本においてもより厳しい削減目標が求められるということです。同時に、エネルギー政策なども見直しが必要となってくるでしょう。
1.5℃未満をめぐる国際的な議論と動向は、これからも注目していく必要があります。
出典:図は全て、IPCCのHP、FAQから引用
Text by 本橋恵一(エネルギービジネスデザイン事務所)