2021.04.12 Update
「新電力事業者様向け無料セミナー ~容量市場、JEPX高騰を踏まえ、君たちはどう生きるか~」レポート
2/18、スマートシティ企画では昨今のJEPX市場高騰や容量市場創設をテーマとしたオンラインセミナーを主催し、講師の方々をお招きして講演とディスカッションを行いました。今回はその開催概要レポートをお届けします。
第一部 JEPXの市場高騰と容量市場制度創設について
第一部では、株式会社S.A.T. 代表取締役 佐藤泰之氏にJEPXの市場高騰と容量市場制度創設について概論をご説明いただきました。
2017年の夏からJEPXのスポット価格の高騰が度々社会で取り上げられています。佐藤氏によると、これまでの高騰は様々な要因が組み合わさって発生した結果であるとのことです。
実際に、スポット価格の高騰の原因として、燃料の不足、天候の予測精度の問題、想定外の発電所の停止などが考えられます。一方で、このような高騰した状況においても、余剰インバランスが発生している現状もあります。このような状況は、電力小売事業を行う各社の予測精度があまり高くないと説明されているそうです。
また、2020年の12月から2021年の1月にかけて過去に類を見ないほどのスポット価格の高騰が発生したことも記憶に新しいです。これは、厳しい寒波の影響で需要の増大が発生したのに加えて、LNGの不足や、新型コロナウイルスの影響で原油や天然ガスの輸送に遅延が生じていること、また、多くの電力会社が寒波による需要を見誤っていた可能性が高いことが原因として説明されているとのことでした(図1)。
図1 過去のスポット価格高騰の原因
今回の高騰によって、新電力と呼ばれる電力小売事業者の電力調達のポートフォリオの組み方にも、課題が存在することが明らかになったと思われます。
そして、最後には容量市場について、容量市場創設は卸電力取引所の高騰を抑えるために必要となること、小売事業者は新たに容量拠出金の請求をされることなどを確認しました。
図2 容量市場創設の背景
第二部 新電力における環境の変化
続いて第二部では、株式会社AnPrenergy 代表取締役 村谷敬氏より、新電力における環境の変化についてお話をいただきました。
村谷氏も冒頭部より積極的に今冬の電力市場の高騰に触れていました。2月13日に福島県沖で発生した地震による発電所の停止が一時的に市場に与えた影響よりも、さらに高い値段で電力が一定期間取引されていたことは、一部の電力の小売り事業者にとっては厳しい状況であったはずだと、結論付けていました。
今回の異常な高騰ですが、いくつかの電力事業者ではある程度予見できていたそうです。その一つとして、偏西風の影響より、昨年の秋の段階で厳冬となる可能性が高いことが明らかであったといいます(図3)。そこで、ある程度の需要の増大は想定可能だそうです。
図3 気圧配置と日本の冬の気温
加えて、LNGの価格が下げ止まりから上昇基調に転じたこと、新型コロナウイルスの影響でLNGの輸送に遅延が生じることが多いこと、中国の景気回復に伴い、世界のLNG需要は増大していることを総合して考えると、ある程度前もって想定できた状況であるといいます。
一方で、いくらこのような状況を示すデータを集めても、実際に状況を具体的に想定するのは、簡単ではありません。そこで、村谷氏によると、「電力の小売り事業者は今後重点的に、調達構造、価格設定、人材育成、情報収集の分野を強化・改善する必要がある(図4)。そして、経済合理性とリスク回避を兼ね備えた調達を実現しつつ、着実に利益を見込めるような価格設定を作り出し、需給管理を行わない場合でも市場に精通した社員が積極的に情報のアップデートを行う環境が理想」とのことでした。
図4 電力事業の見直し活動4項目
第三部 ディスカッション
第三部では、講師の佐藤氏、村谷氏及び、司会として「ご当地電力を巡る旅」をテーマに活躍するyoutuber宮澤テクノロジー氏を交え、ディスカッションが行われました。
ここでは宮澤テクノロジー氏の質問と、佐藤氏、村谷氏の回答をいくつか抜粋して紹介します。
Q1.JEPXの高騰時には様々な情報が錯綜し、何を信じればよいかわからない現状もあります。より精度の高い情報に触れるにはどのように学ぶべきでしょうか。
⇒新聞や公的な機関(監視委員会や経済産業省など)が発行している情報は信頼性が高いです。一方で、このような情報だけでは十分ではない現状があります。そこで、正しい前提情報を理解したうえで、専門家とディスカッションを深めると、よりリアルな実態に迫れると思います。(佐藤氏)
⇒分からないことは、たとえライバル社でも飛び込んで聞いてみる姿勢が重要であると思います。このようなコミュニケーションが、将来の成長に確実につながるはずです。(村谷氏)
Q2.地域新電力の情報共有はどのような形で進んでいるのでしょうか。今後、情報共有が進む余地もあると思います。
⇒中々、横のつながりが少ない現状があります。このようなセミナーなどを通して、コミュニケーションの輪を広げたり、大きな会社とのコネクションを作ったりすることが重要です。また、これが新たなビジネスにつながるはずです。(村谷氏)
Q3.実際にはどのようなことを大手電力に聞けばいいのでしょうか。
⇒託送供給約款の読み方や、何か想定外の事象が発生した場合には逐一聞いていました。(村谷氏)
Q4.どのように優れたバランシンググループを見つけることができるのでしょうか。
⇒どのような企業が実際にバランシンググループに加わっているのか、事前に照会することが重要です。過去には、加わるバランシンググループが原因で、トラブルが発生した事例もあります。そのような問題を防ぐうえで、どのような企業が加わっているか参照するのは有効です。(佐藤氏)
⇒実際に、その会社に足を運ぶことはかなり有効です。実際に現場の社員はどのように仕事をしているのか、目で見て肌で感じることが重要です。(村谷氏)
そして、最終的には、電力の供給に関わる人がより高いリテラシーをもって業務に取り組むことで、電力の小売市場がより良い形になるという見解で一致していました。
作成:スマートシティ企画 インターン 三瀬 遼太郎