2022.08.24 Update
太陽光の設置義務化、エネルギーの地産地消のもたらす「社会的価値」にも注目を
地方自治体による建築物への再エネ発電設備の設置を義務付ける動きについて、多くの関心が寄せられています。折しも、地域新電力事業がもたらす経済的・社会的価値を可視化するという共同研究がスタートしました。今、エネルギーの地産地消について、改めて考えるべきときが訪れています。
建築物への太陽光の設置義務化、東京都や川崎市で
東京都では、一定規模の中小建築物に対して太陽光発電設備の設置を義務付ける環境確保条例の改正案について、パブリックコメント結果がこのほど公表されました。東京都環境局によると、パブリックコメントには3,700件を超える意見が寄せられたとのこと。意見に対する都の考え方を示した詳細資料は107ページにのぼります。
都の「建築物環境報告書制度(仮称)」では、都内において年間に供給する住宅の延べ床面積が合計20,000平方メートル以上の大手住宅供給事業者に対し、一定の中小規模新築建物への再生可能エネルギー発電設備の設置や断熱・省エネ性能などを義務付けることを検討しています。
また、神奈川県川崎市も7月、都の改正案にならい、延べ床面積2,000平方メートル以上の新築・増築を行う建築主に対し、再生可能エネルギー発電設備の設置を義務付ける「建築物再生可能エネルギー総合促進事業の制度概要(仮称)」の素案を公表しました。
こうした条例でもっとも早いものとしては、京都市が2004年に制定した「京都市地球温暖化対策条例」が挙げられます。ほかにも、京都府や福島県大熊町、群馬県なども同様の条例をすでに制定しています。今後は、こうした動きが全国の地方自治体へ波及していくものと思われます。
日本ガイシ、地域新電力の経済的・社会的価値の可視化を研究
こうした制度が検討されている背景には、脱炭素を目指す大きな流れがあります。しかし、再生可能エネルギーの自家消費を拡大することには、脱炭素のほかにもメリットがあります。例えば、電気料金の抑制。自家消費をすることで、電力会社から購入する電気を減らし、電気料金を抑える効果が期待されます。また、停電などの災害時には、太陽光発電設備を自立運転することで、非常用電源の確保にも役立ちます。
同様に、地域新電力にも多様な価値が秘められていると考えられます。日本ガイシは7月、岐阜大学とともに「地域新電力会社が提供する経済的・社会的価値の可視化に向けた共同研究」を開始したと発表しました。この研究では、地域新電力の恵那電力が提供する資金の地域内循環やカーボンニュートラル、防災力強化といったさまざまな効果について可視化を行うとされています。
地域内の資金循環やカーボンニュートラル、防災力といった効果はこれまで、経済的メリットの“付加価値”と位置付けられることが多かったのではないでしょうか。現在でも、地方自治体における判断基準としては、コストメリットが上位を占め、こうした付加価値は加点要素にとどまることも多いように見受けられます。
しかし、こうした付加価値を可視化することで、KPIとしての優先順位を向上できれば、より特性が生かされた、多様な地域のあり方が実現できるのではないでしょうか。共同研究は、このほど開始されたばかりですが、どのような結果が生まれるのか注目されます。
制作:office SOTO 山下幸恵 Facebook