IPCC第6次報告書、今後10年間で1.5℃目標達成の可否が決まる

2023.04.11 Update

気候変動 カーボンニュートラル

IPCC第6次報告書、今後10年間で1.5℃目標達成の可否が決まる

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は3月20日、第6次評価報告書の統合報告書を公表しました。前回の第5次評価報告書から約9年ぶりのことです。今回は、第6次評価報告書のポイントをまとめてお届けします。

 

IPCCの評価報告書とは

はじめに、気候変動に関する政府間パネルIPCC、Intergovernmental Panel of Climate Change)とは、世界各国の政府が策定する気候変動に関する政策に対して、科学的な基礎を与えることを目的に設立された政府間組織です。世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)によって1988年に設立されました。世界中の科学者が協力して定期的に報告書をとりまとめ、気候変動に関する最新の科学的知見を公表しています。

IPCCの評価報告書(AR、Assesment Report)は、1990年から2023年の間に6回にわたって公表されてきました。これまでの評価報告書では、回を重ねるごとに、温暖化の主な原因が人間活動である可能性が高いと結論されていることがわかります。

(出典:環境省、IPCC『1.5℃特別報告書』の概要

 

 

第6次評価報告書のポイント

2023年3月20日、第6次評価報告書(AR6)の統合報告書が公表されました。評価報告書は、第1部作業部会(自然科学的根拠)、第2部産業部会(影響・適応・脆弱性)、第3部会(気候変動の緩和)によって構成されていますが、統合報告書はこれらをまとめ、結論づけたものです。第6次評価報告書の主なポイントは次の通りです。

 

1.世界の平均気温は2011〜2020年の10年間で1.1℃上昇

世界の平均気温は、産業革命前と比べて2011〜2020年の10年間で1.1℃上昇したとされています。世界全体の温室効果ガス排出量はまだ増え続けており、その原因としては持続可能でないエネルギー利用土地利用生活様式や消費・生産パターンなどが挙げられています。

 

2.現在のNDCでは今世紀中に気温上昇が1.5℃を超える

世界各国は、国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)において、気候変動対策に関する目的として「国が決定する貢献(NDC)」を宣言していますが、現在のままでは、21世紀の間に世界の平均気温の上昇が1.5℃を超えるとされました。

(参考:環境省、AR6統合報告書 政策決定者向け要約

また、気温上昇を1.5℃に抑えられるか、あるいは2℃になるかは、今後10年間のCO2排出量の水準によって決まる可能性が高いとも指摘しています。

3.カーボンニュートラルを実現すれば温暖化を低減できる

気温上昇が1.5℃などを超えたとしても、世界全体でカーボンニュートラルを実現・継続すれば温暖化を徐々に低減することは可能だとされています。この場合、大気中からCO2を除去するカーボンネガティブ技術などを追加的に導入することが必要だとされました。

 

4.今後10年間の緩和・適応策によって生態系や大気汚染が左右される

今後10年間において、急速に緩和・適応策を実施すれば、生態系への損失や損害、大気汚染などに対して多くの共便益(コベネフィット)を得られるとされました。これに関連して、CO2排出量の多い産業は座礁資産、コスト増大のリスクが高まることも指摘されています。

 

今回の第6次評価報告書によって、カーボンニュートラルを必ず実現しなければならないという緊急性がさらに高まったと言えます。また、気候変動対策をとることで、社会全体のレジリエンスを向上できるなど、社会保障制度にも寄与することが言及されました。地方自治体においても、気候変動対策を基本的な施策に織り込むことが、より強く求められるようになるのではないでしょうか。

制作:office SOTO 山下幸恵 Facebook