2019.05.10 Update
EUにおけるオーガニックワインと地域振興政策
先日、オーガニックワインについての話を聞く機会がありました。オーガニックワインの専門店であるマヴィに、イタリア・マルケ州の生産家が来日したことをきっかけに、レクチャーがあったのです。
オーガニック農業の背景や推進政策、考え方などについては、地域振興やスマートシティなどについてのヒントもあると感じました。とりわけ、太陽光発電事業では、除草剤の散布が問題となっています。自然環境を守るはずの太陽光発電での農薬使用の是非は問われる必要があるかもしれません。
世界のオーガニックワインの7割はスペイン、イタリア、フランスから
オーガニックワインは、無農薬有機栽培で生産されたブドウを原料としたワインです。
ワインに限らず、農薬への不安などから、オーガニック食品を選ぶ消費者は先進国には多く、年々増加しているといいます。
とはいえ、オーガニック食品は、無農薬有機栽培であればいいというわけではありません。オーガニックであることを示す記録をつくり、認証されなければいけないのです。しかも、加工食品の場合は、生産設備でも化学薬品を使うことができません。
以前、オーガニックの清酒を醸造している蔵元を訪ねたことがあるのですが、ワイン以上に多くの設備を使用する清酒では、設備を合成洗剤で洗うことができず、お湯で洗い、それを写真などとともに記録に残すことが必要ということでした。
オーガニックのお米も高いことから、オーガニックの清酒は日本では数か所でしか醸造されていません(栃木県の天鷹酒造、茨城県の月の井酒造など)。
少し話がそれましたね。
オーガニックワインは、世界各地で造られていますが、マヴィ代表取締役の田村安さんによると、生産量の7割は、スペイン、イタリア、フランスに集中しているということです。もっとも、ワインの生産量そのものが、この3国がトップ3なのです。そして、田村さんによると、これらの国ではブドウ畑の約1割がオーガニックの畑だということです。
DIVA Networkによると、2016年におけるオーガニックのブドウ畑の面積は、スペインで10万ha以上、イタリアで8.5万ha、フランスで7万haということです。一方、ワインの生産量ですが、全ワインについてですが、ワインに関する政府機関、Office International de la vigne et du vinによると、スペインが40.9億リットル、イタリアが48.5億リットル、フランスが46.4億リットルです。ざっと、この1割弱がオーガニックワインということでしょうか。
図1に、2018年の各国の生産量を示しておきました。ただし中国とロシア、日本は2017年のデータです。なお、日本のワイン生産量は約8579万リットルですが、そのうち8割は輸入したブドウ果汁によるワインです。
図1
オーガニック農業をめぐる、環境政策と南北格差
オーガニックワインの生産量ではスペインに次ぐイタリアですが、近年急速に伸びてきたということです。田村さんによると、その背景には、南北格差があるといいます。
生産量でいけば、北部のヴェネト州とエミリア=ロマーニャ州、南部のプーリア州とシチリア自治州の4か所でほとんどだといいます。一方、オーガニックワインに限ると、南部のプーリア州、シチリア自治州、そして同じ南部のカラープリア州が入ってきます。
なぜ、南部なのか。それは、所得が低い南部は、EUのオーガニック助成金をもらうために、オーガニック農業をしている、ということです。
EUにはオーガニック助成金という制度があり、EUと国がそれぞれ3分の1ずつ補助してくれます。名目としては、環境を守る農業の保護であり、地方経済の維持ということになりますが、それ以上に、工業生産による所得を農業に分配しているという意味が強いということです。とはいえ、結果として、ヨーロッパの有機農業の面積は日本と比べてはるかに大きくなっています(図2、出典は農林水産省HP)。
図2
WTO(世界貿易機関)では農業補助金に対する規律がありますが、環境政策としての補助金なので批判できないということがあり、こうした形の助成金になっているということです。
それから、2012年にオーガニックワインの規格が統一されたということも、生産増に関係しています。
田村さんによると、ワインの90%以上は、工場が原料を調達して大規模施設で醸造する、いわば工業製品だといいます。そこでは効率的に醸造するため、殺菌によってブドウの皮の酵母を殺した上で、新たに酵母を加えることなどが行われています。こうした施設での醸造も、オーガニックとして認証されています。そこで、ブドウ農家は補助金を得るためにオーガニックのブドウを栽培し、こうした工場に納入しているということです。
もっとも、田村さんは、マヴィで扱うのは、工業製品ではなく、ブドウの栽培から行っている醸造家のワインということは変わらない、と話します。
美しい村のオーガニックワイン
今回来日した、カプリオッティさん(写真1)は、イタリア中部東側のマルケ州でワインを造っています。オッフィーダはイタリアで最も美しい村のひとつだということですが、スライドに映しだされた農園や丘陵はほんとうに美しいものでした。
写真1
カプリオッティさんは、オーガニックについて「認証やラベルではなく、心持ち、生活、精神にかかわるもの」だと話します。認証は父親の代の1997年に取得し、カプリオッティさん自身は2001年からワイン造りにかかわっているということです。
ということで、ワインのテイスティングもさせていただきました。
最初は、パッセリーナというブドウの白ワイン“Passerina”から。グラスに入れた瞬間から素早く香りが立ち上がります。シトラス系の花の香りでしょうか。軽く蜂蜜やパイナップルの香りもします。辛口ですが、ほどよい酸味と清涼感は、初夏の大地を思わせます。
“Polesio”はサンジョベーゼというブドウを使った赤ワインです。ちょっとからみつくような甘い香りがします。果物はジャムになっている、そんな感じでしょうか。強い生命力を感じます。渋みもほどほどの軽さ。豊かな生命力を持つ夏の森といったところでしょうか。ソテーした肉に合わせたいと思いました。若くて元気なカップルにおすすめかな。
“Podele”は、サンジョベーゼとモンテプルチアーノという2種類のブドウを半分ずつ使った赤ワインです。深くて柔らかい香りは、しっとりとした花、あるいはダークチェリーでしょうか。渋みはおだやかですが、あたたかな甘みも感じます。意外に、中華料理の点心に合うのではないかと思いました。また、このワインイタリアでもっとも古いDOC(統制原産地呼称)のワインだそうです。
ところで、カプリオッティさんによると、サンジョベーゼは酸化しやすい小さい木樽で早めに熟成させ、サンジョベーゼは大きな木樽でゆっくり熟成させるそうです。サンジョベーゼの方がデリケートだからだそうです。そして、すっきりした味わいに仕上げる白はステンレスタンク。こんなところにも、生産者としてのこだわりがあります。
写真2は、ワインを紹介したパンフレットです。いずれも、3000円以下のリーズナブルなワインです。機会があればぜひ。
エネルギーデザイン事務所:本橋恵一