国土強靭化と、新しい防災の考え方「フェーズフリー」

2019.06.14 Update

まちづくり 防災

国土強靭化と、新しい防災の考え方「フェーズフリー」

2019年3月、「第5回ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)」の表彰が行われました。これは国の主要政策である国土強靭化の達成に向けて、レジリエンスジャパン推進協議会が、“強くてしなやかな国づくり、地域づくり、人づくり、産業づくりに資する活動、技術開発、製品開発等”を実施している企業・団体を評価・表彰するものです。今回は、このレジリエンスアワードと、そこでグランプリを受賞した「フェーズフリー」というテーマについて、フォーカスを当てていきたいと思います。

そもそも、レジリエンスとは

レジリエンス(resilience)は一般的に、回復力や弾力などと訳される言葉です。防災の文脈では、災害をもたらす外力からの「防護」にとどまらず,国や地域の経済社会に関わる分野を幅広く対象にして,経済社会のシステム全体の「抵抗力」,「回復力」を確保する、というような意味で使用されています。自然災害が頻発し避けられない日本にとって、抵抗力を高めその被害を最小にし、迅速に回復することをめざす、とても有用な考え方といえます。

国の主要政策のひとつ、国土強靭化(ナショナル・レジリエンス)

国は、国土強靭化(ナショナル・レジリエンス)を主要政策として、2014年にはその具体的な計画である「国土強靭化基本計画」を定めました。(※①)

国土強靭化の基本目標としては、下記が挙げられています。

・人命の保護が最大限図られること

・国家及び社会の重要な機能が致命的な障害を受けず維持されること

・国民の財産及び公共施設に係る被害の最小化

・迅速な復旧復興

また、国土強靭化の重点課題としては下記のプログラムが挙げられています(図1)。

(図1)国土強靭化の重点課題(出典:内閣官房HP)

レジリエンスジャパン推進協議会とレジリエンス・アワード

国土強靭化基本計画の達成に向け、産、学、官、民が相互に連携しレジリエンス立国を構築することを目的に2014年7月にはレジリエンスジャパン推進協議会が設立されました。この協議会では国土強靭化に関する総合的な施策推進と、より多くの国民に国土強靱化の理解を促進し行動を誘発していくことをミッションとしています。

「ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)」は、この協議会の活動の一つとして、2015年から開始され2019年で5回目の開催となります。

フェーズフリーを導入したクリーンセンターが大賞を受賞

2019年は、今治市クリーンセンター(今治市、NPO今治センター、今治ハイトラスト株式会社、株式会社タクマ)が受賞しました(※②)。

今治市クリーンセンターは、「安全安心で人と地域と世代をつなぐ今治市クリーンセンター」を基本コンセプトとしています。防災の取組みを平常時にも役立てる「フェーズフリー」という概念を、全国のごみ処理施設で初めて取り入れ、平常時は「市民が集い、地域交流を活性化する場」、さらに災害時には「あらゆる市民が安心して避難できる、地域の指定避難所」として、平常時と災害時の両方で、地域に貢献可能な施設となっています。

また、ソフト面では、独自の事業継続計画(BCP)、毎年の防災訓練に加え、官民NPOが連携して避難所運営を行うなど、従来のごみ処理施設にはない、「災害発生後すぐに安心して避難可能な施設」を実現するための体制を構築しています。 (図2)

レジリエンス・アワードでは、「あらゆる市民が安心して避難できる施設」を実現するための、ハード・ソフト両面での先進的な取り組み、そして防災の取組みを平常時にも活用する“フェーズフリー”な取り組みが高く評価されました。

(2) 今治市クリーンセンターの取組み全体像(出典:株式会社タクマPR

フェーズフリーとは?

日本では毎年のようにさまざまな災害が発生していますが、災害による被害は繰り返されています。災害時に身の回りで発生する事象はイメージしにくく、想像に基づいて備える防災では限界があることが一因と考えられます。

そこで生まれたのが、「フェーズフリー」という防災に関わる新たな概念であり、「平常時」「災害時」という“フェーズ“を取り払って、平常時と災害時の両方で差がなく利用でき、日常の価値と非常時の価値の両方を同時に高めるというものです(図3、※③)。

(図3)フェーズフリーの考え方(出典:フェーズフリーHP)

 フェーズフリーの考え方に基づいて作られたものは、使うほどに非常時の利用シーンを具体的にイメージしやすくなり、広がるほどにより安全な社会をつくることが可能となると考えられています。

今回は、クリーンセンターに取り入れられたフェーズフリーの概念ですが、あらゆるプロダクトやサービスにも応用することができます(例えば、軽量&大容量のランドセルは浸水時に浮き輪代わりにできる、など)。身の回りのものからも、日常的にも価値が高いものとして、フェーズフリーのプロダクトやサービスが浸透していくことは、政策としての国土強靭化にはもちろん、日本のレジリエンス力の身近なところからの底上げにも、大いに貢献することが期待されます。

 

(参照)

※①内閣官房HP https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokudo_kyoujinka/

※②株式会社タクマPR「ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)2019 グランプリを受賞」https://www.takuma.co.jp/news/2018/20190320.html

※③フェーズフリーHP https://phasefree.org/introduction/

(トップ画像出典も同HPより)