気候変動の「適応」を再考する。環境省が自治体と企業の課題を整理

2024.08.22 Update

気候変動 官公庁

気候変動の「適応」を再考する。環境省が自治体と企業の課題を整理

環境省はこのほど、気候変動適応策を推進する「気候変動適応法」の施行5年目にあたって、中間取りまとめを行いました。適応策の現状と課題を踏まえて、自治体や企業に求められる今後のアクションについて考察します。

 

気候変動適応法とは

(気候変動適応法の概要。出典:環境省)

 

気候変動適応法は、気候変動への適応を法的に位置付け、強力に推進していくために平成30年に施行されました。これに基づいて、気候変動適応計画が閣議決定され、適応に関する施策の基本戦略や分野別の施策などが定められました。基本戦略としては、あらゆる関連施策に気候変動適応を組み込むこと、科学的知見に基づく気候変動適応を推進することなどが掲げられ、関係府省庁が連携して推進することとされています。

 

適応法の施行から5年、自治体と企業の現在地

適応法では施行後5年ごとに施策の進捗を確認することが定められており、環境省はこのほど、中間取りまとめを発表しました。それによると、地方自治体には「地域気候変動適応計画」の作成に努めることとされており、昨年度末までに315の自治体が適応計画を策定しました。

 

また、適応に関する情報収集やアドバイスなどを行う拠点として、「地域気候変動適応センター」の設立や、より広域的な適応の推進のための「気候変動適応広域協議会」の設置なども進んでいるとしています。

 

企業に関しては、気候変動に関するリスクを回避する「気候リスクマネジメント」、気候変動をビジネス機会ととらえる「適応ビジネス」の2つの取り組みがあり、足元では、大企業を中心に気候変動に関する財務情報を開示する動きが進んでいます。特に、令和4年度から、東京証券取引所のプライム市場の上場企業に対して気候リスクの開示が義務化されたことで、情報開示に取り組む企業が増えています。

 

また、適応ビジネスに関しても、ICTなどを活用してこれまでになかったビジネスを創出する動きが本格化しています。環境省の気候変動適応プラットフォーム「A-PLAT」では、高温から作物や海洋資源を守る新たなサービスや、次世代型の農業システム・酪農システムなど企業の新しいソリューションが数多く紹介されています。

 

適応をめぐる課題と今後の展望

中間取りまとめでは、適応に関する取り組みの課題として、進捗を図るための適切な指標の設定が難しいこと、効果を得るには長い時間がかかることなどを挙げています。こうした課題をクリアするには、科学的知見を蓄積することが重要であると改めて確認されました。

 

そこで、今後の取り組みとして、気候変動の影響評価に、自然科学的な視点だけでなく、社会・経済的なリスクを考慮した考え方を取り入れるとされました。

 

自治体における課題としては、計画策定などを行う人員や予算、ノウハウの不足が挙げられ、こうした傾向は特に規模の小さい自治体で顕著であるとされました。そのため、共通の課題を持つ複数の自治体が共同で計画を策定するなどの対策が必要であると指摘されています。また、自治体の中で関係する部署が多岐にわたると調整が困難になることから、各省がある程度リーダーシップを取り、自治体へ展開していくなどの対応も有効であるとされました。

 

その一方で、企業における課題としては、専門性の高い人材の不足や、情報開示に関する適切な手法の開発、アクセスなどに課題があるとされました。そのため、関係する省庁が連携して気候変動関連データの利活用を検討したり、必要なデータへのアクセス環境を整備したりすることが重要であるとされています。また、企業が気候変動対策に取り組むに当たっては、明確なベネフィットを提示することが必要であるとして、適応ビジネスの成功事例をアピールすることも大切だとされました。

 

今後は、大手企業だけでなく中小企業に対しても適応に関する取り組みが求められるでしょう。大手企業と取引関係にある中小企業では、そうした要請が特に高まると考えられます。限られた人材、資金で適応策を進めるには、先行事例に学び、既存のシステムをうまく活用することが重要だと考えられます。企業の規模に関わらず、適応策に取り組みやすい環境整備が求められています。

 

(参考:環境省 https://www.env.go.jp/press/111127_00004.html

 

 

 

制作:office SOTO 山下幸恵 Facebook